今回ご紹介するのは、長野県でりんご・梨を中心に栽培されている「原農園」さんです。

原農園さんと私が知り合ったのは、東京都内のマルシェでした。
出店者仲間として切磋琢磨する中で、私たちのNarrative Food事業に共感していただき、
今回こうしてその物語をご紹介できる運びとなりました。

標高800m。開拓の歴史が宿る山頂の園

長野県信州松川町。中央アルプスを正面に望むこの町の、
さらに険しい道を登り詰めた標高800mの山頂に「原農園」はあります。

ここは戦後の開拓期、わずか五軒の入植者たちが手を取り合い、
文字通りゼロから土を耕し、岩を退けて切り拓いた場所。
今も当時と変わらぬ凛とした空気感と、開拓者たちの力強い精神が、園内に立つ古木の一本一本に宿っています。

現在、この広大な園を一人で守り続けているのは、二代目園主の原さん(76歳)。
そのたった一人の背中を追い、2023年に人生の大きな舵を切ったのが、娘の佐々木さんでした。

 

りんごの収穫時期

保育士から農業へ。次世代へ繋ぐ決意

千葉県で保育士としてキャリアを積み、三人の子供を育てる母でもある佐々木さん。
彼女がお父様の守ってきたこの景色と、人生を懸けてきた木々と向き合う決意をしたことで、
原農園の物語は次世代へと再び動き始めました。

原農園のりんごづくりには、一切の妥協がありません。
その象徴が、手間を惜しまず行われる「無袋(むたい)栽培」です。

  • 太陽のエネルギーを直接受け取る 主力品種である「サンふじ」をはじめ、
    果実に袋をかけないこの農法は、太陽の光をダイレクトに浴び、そのエネルギーを実に凝縮させます。
  • 「誠実さ」が詰まった味わい 見た目の滑らかさ以上に、一口かじった瞬間に溢れ出す圧倒的な甘みと、
    大地を感じさせる深いコク。それは、エコファーマーとして自然の循環を尊び、
    土づくりからこだわり抜いてきた二代目園主の「誠実さ」そのものです。

 

二拠点生活で描く、新しい農業の形

現在、農園は大きな転換期にあります。
佐々木さんは住まいのある千葉県と長野を行き来する二拠点生活を送っています。
繁忙期は週の半分を長野での農作業に捧げ、千葉に戻っている間も事務作業や加工品の発送業務を担うなど、
離れた場所からもしっかりと園を支えています。

長年の保育士としての経験と、母としての視点を持つ佐々木さんにとって、
農業は単なる食料生産の場ではありません。

「次世代を担う子供たちに、本物の味と生きる力を伝えたい」
「お父様が人生をかけて育てたりんごを、傷があるからといって一つも無駄にしたくない」

そんな切実な想いが、佐々木さんを突き動かしています。
その想いは、BASEやメルカリを通じた消費者との直接的な繋がり、
そして新たな加工品開発への挑戦という形で、実を結び始めています。

未来への葛藤、そして希望

三代目の形は、まだ模索の途中にあります。 生食用としてその鮮度と驚きを届けるべきか、
あるいは加工品として新しい命を吹き込み、より広く届けるべきか。
一人の生産者として雇用を生み組織化すべきか、それとも家族の絆を核とした「顔の見える」農業を貫くべきか。

その悩みや葛藤さえも、佐々木さんは隠すことなく未来へのエネルギーへと変えています。
その姿は、かつて荒れ地を切り拓き、この地に希望を植えた開拓者たちの精神を、現代の形で受け継いでいるようにも見えます。

Narrative Foodは、この山頂の清らかな空気感、
そして原さん親子が交わす「おいしさへの約束」を皆様の元へお届けします。
一玉のりんごの背景にある、家族の絆と、未来を切り拓こうとする力強い物語を、ぜひ五感で味わってください。